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  • 執筆者の写真SHADOW EGG

1話『フラッグ』



オドン帝国北部 バル研究所──



帝都から北方に離れ、山脈のふもとに存在する研究所。

敷地には主要の大きな建物が3つ。


だがそれらの建物に交わるように緑色に光るパイプや網状の足場が複雑に絡んでおり、現実世界の人間が見れば間違いなく変わった工場だと勘違いするだろう。

そんな乱立した建物を囲むかのように広い壁で囲まれている。

いつもの深い夜なら音もなく静かなもの────だが今日は違った。


まるで戦場のように爆破音と警備兵の荒げた声、そして銃声が夜の空にこだまする。

銃声とは言っても近代的なマシンガンやピストルのような火薬が爆発するような銃ではなくエーテル銃と呼ばれる珍しい魔法銃──。


「くそ!いったいなんだよ!」


横長い建物を背に、膝をつくような体勢で剣を構えた警備兵らしき男は投げやりに言う。


「あいつら何モンだ……!どこから侵入したんだよ!」


バル研究所は現在、武装集団に襲われている。

戦場とは無縁なほどのこの地に突如黒い布で顔を隠した集団が侵入し、夜間で少ない研究所の職員達を人質にとった。

研究所に駐屯している警備兵達は今、入口付近で必死に敵と交戦をしているのだ。


「知るか!どうせ反帝国主義者か何かだろう!エーテル銃なんて大層な武装までしやがって!」


警備兵は横目で本館の方角ではなく射線上の道をまたいで、向かいの建物を見ながら話す。

敵を見たくても見る事が出来ないのだ。


少しでも本館の方に顔を出すものならすぐにエーテル銃の魔法弾が飛んでくる。

あの魔法銃に壁を壊すほどの破壊力はないが首から上が大炎上なんて目に合いたくはない。

さらに向いの建物にも警備兵が一人、そして負傷して意識のない倒れた警備兵。


「くそ……他の人達は大丈夫なのか……」


「おい!伏せろ!」


向かいの警備兵の大きく叫ぶと同時に警備兵達の近くの道中に何かが転がって来た。

爆発物だと察知した警備兵達は大きく伏せた。

道に転がったソレに空から雷が降り、誘発するように爆発音が再び夜の空へとこだまする──。


音に反して威力はさほど大きくなかったのか、壁際にいた2人の警備兵もそれほど大きなダメージを負わなかった。

だが黒い煙が立ち込め、より一層視界が悪くなった。

本来であれば、警備兵達を完全に無力化するのであれば敵はこの隙に詰めるのが戦術の王道。

しかし彼らは本館の入り口から動く気配はなく、再びこうちゃく状態に戻った。


「だ、大丈夫か……?」


「ああ……サンダーで音爆玉を狙ったみたいだな……くそ……耳がキーンって鳴ってやがる……」


そんな中、警備兵の元に一人の通信兵が走って来る。


「ハァ……ハァ……ほ、本部から通達!援軍による作戦行動を開始!可能な限り彼らを援護せよ……!とのことだ!」


「……援軍?どこに……?」


警備兵は再び壁際から顔を出し、ほんのわずかな間、本館の方を見た──。

コンマ数秒。

かろうじて見たコンマ数秒の間に警備兵は見た。

立ちこむ煙の中へ研究所の屋上から大きな影がひとつ、そして遅れてまた少し小さな影がひとつと影が降ったのを──。


大きな影のひとつは、研究所の扉の前にいる謎の一味うちの1人の背中に拳を打ち立てるように着地した。

そしてその直後、小さな影は丸くした体を上下回転させ、足を延ばして壁を蹴る。

その反動でもう1人の謎の一味に突進し、敵を吹き飛ばした。


前方で警備兵相手にエーテル銃でけん制していた3人の覆面の者達は仲間が吹き飛ぶその音に驚き、後ろを振り返った。

火と夜の影の中に立っていたのは

"大柄の金髪の男"と、"短剣を持った赤い髪の少年"。


瞬く間に仲間がやられた事に気づき覆面の者達はエーテル銃を構えた。

しかし中距離で戦っていた人間が唐突な近接戦に対応できるはずもない。


金髪の男と赤い髪の少年は、間髪入れず飛び込み、3人を次々と倒した。


研究所を囲む東の壁上から、目視できる距離で別角度を警戒していた武装勢力の仲間と思われる連中が異変に気付く。


「こっちだ!」


その一声とともに武器を構えながら立っている金髪の男と赤髪の少年に向かって走り出す。

助走からその距離がどんどん近づく。しかし交戦に入る直前──


謎の一味の進行ルートに1つの矢が静かに刺さる。

走るテロリストの足元あたりでその矢は連鎖するようにさく裂的な爆発をし、これが敵の1人の足元に命中した。

奇襲とも言える突然の小爆発に走るのを止め、怯んだ敵は上部に意識が行く。


建物の上からしゃがみボウガンを構える青年の姿。

見るからに金髪の大男と赤髪の少年の仲間だ。

矢に特殊な加工をし、時間で爆発するように地上を狙って射たのは彼の仕業だ。

その僅かな隙を狙ってか、金髪の男と赤髪の少年は飛び込むように走りだし、その意を突かれた覆面の者達は成すすべもなく二人からの攻撃に倒れた。


2人が着地してからわずか15秒。

このわずか15秒でバル研究所の入り口にいた武装勢力8人を奇襲と連携で彼らは無力化したのだ。

2人は入口に向かって歩きながら金髪の男が耳につけた機器に手を当て、何やら話し始めた。


「こちらブラック1よりブラック2へ。プランA終了、このまま続いてプランBに移行する」


耳に当てた通信機のようなものから女性の声がノイズとともに聞こえた。


(ザ……ザザ……こちらブラック2、了解。

内部には人質4名。犯行グループの数は不明──これよりプランBまでカウント300。

次の作戦に移行してください)


「ブラック1了解。ブラック3はカウント300までにポジション移動しつつ屋外警戒」


(ブラック3、了解)


そういうと屋根でボウガンを構えていたブラック3と思わしき青年は移動を開始し、ブラック1と名乗る金髪の男は後ろを振り向き、警備兵達の方を向き大きく声を出した。


「我々は独立第4特殊部隊フラッグ!本部からの緊急要請で作戦を遂行する!

そこの警備軍!こいつらの後処理は任せたぞ!」


金髪の男は再びバル研究所の入り口へと向き、小さな声で赤髪の少年に話しかける。


「これより突入を開始する。いくぞブラック4」



ブラック4と呼ばれた赤髪の少年は小くうなずき、2人はバル研究所の中へ走っていった──



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