top of page
  • 執筆者の写真SHADOW EGG

4話『フラッグ4』

バル研究所の西館内部にある大部屋。

部屋の中は明るく無造作に散らばった資料に見慣れない液体、固形物の入ったビンが転がっている。

奥で集められた研究員達が人質にとられており覆面武装した者たちが5人、陣を敷いている。

1人は人質の前で背を向けながらも武器を構えて警戒しており、3名はアルフとジンの隠れている壁に向かってエーテル銃を撃っている。

彼らに挟まれる形で覆面連中のリーダーらしき人物が槍を構えて立っていた。


大部屋の入り口は高くその左右には大部屋に降りる階段が斜めに設置されている。

2本の円柱と花壇を利用し、アルフとジンは低い姿勢でそれを背に大部屋下層の敵への警戒をしていた。


「……やっこさんこっち見るなり迷いもなくぶっ放してきやがって」


ジンは通信機を使って小声で話を続けた。


「ありゃなんだ?ド素人かと思えば反応に迷いがない」



2人の耳元からノイズ音が発生し通信機でブラック2の女性声が聞こえる。


(ザザ……反帝国主義やアンチエーテル……辺りでしょうか?)


「断定はできんな。……だがエーテル銃に導力ゴーレム兵器。

そんなレアモノまで持ち出しておいて、思想家がここを占拠して何の意味がある?

犯行声明もなし、動機も不明。

こんな研究所を襲うだけのメリットのある勢力……どこぞの商会あたりか?まぁ尋問は我々の仕事ではないがな」


(……警備軍になんとか頑張ってもらいましょうかね)


「さて……世間話はここまでだ。そろそろあいつも準備が出来た頃合いか?」



アルフとジンの耳元からさらにノイズ音が発生した。


「あーこちらブラック3。予定ポイントに到着。クリア」


「ブラック2了解。通信終了後、カウント20後でダウンに入る。

5カウント前にブラック3は援護を。クリア」


「ブラック3、了解。通信終わり」


「ブラック1、ブラック4、了解。通信終わりだ」


戦場にもかかわらずアルフとジンは目を閉じた。


(焦るなよアルフ。慎重に素早く、だ)


静かに……冷静に……まるで静寂を感じるかのように、警戒を少し解きながら目を閉じたまま秒を数えた。



10……9……8……7……6……5



パリン! という大きな音が鳴った。

大部屋の奥の高いキャットウォークにある窓ガラスが割れ、そこからブラック3と呼ばれていた男が腕を顔の前で交差させながら颯爽と登場した。

中にいた誰もがその音に驚く中、それでもアルフ達は動く気配すらなく静かに目を閉じていた。


「ここが狙い目のタイミング!」


ブラック3は滑り込むような着地と同時によろめきながらも素早くボウガンを構え、人質の手前にいる敵の肩を目掛けてボウガンを射た。

他の連中も瞬時に素早くそれに対応しようとするが──



(──エーテルライト──ダウンします)



明るかったはずの大部屋の明かりがフッと暗くなり、突然の暗闇に敵とブラック3は視界を損なった。

近くにいる人質の事でさえも。


「なっ!?明かりが…!?」


人質にされていた者達すら突然の出来事に驚いていた。

直後二つの足音が部屋で鳴り響く。

暗闇の中、鈍い音が部屋の中で何度も何度も響き渡り、時折硬い金属のようなものが落ちる音、そして叫び声が聞こえた。

敵は視界確保のために急ぎエーテルを発動させようとうっすらと焦げた黄色のような光が手元に集まるが、すぐに近づく人影によってその光は散るように消えて行った。


「そっちかよ!!」


覆面のリーダーらしき男の声が聞こえたが、その直後に静かに鈍く何かが倒れる音が聞こえた。

そして音は消え、静かになった後にアルフとジンの耳元でノイズ混じりの声が聞こえる。



(──エーテルライト──復旧します)



再び大部屋に明かりが灯されると付近には倒れている覆面達の姿と二人の男が立っていた。

すかさずアルフは周りを確認し、人質達を見て安全の確認をとった。


「よし、各員。作戦終了だ。よくやった」



そう、全てはこのための布石だった。



フラッグ隊の侵入。

そして正面からのルートで攻略する事で位置情報を与えアルフ達に警戒させたのが一手目。

次に視界の有利を作るためにアルフ達に目を閉じさせ光源を利用した目くらまし視界有利で二手。

ブラック3に違う方角から奇襲で攻めさせ人質の安全確保と敵の方向を狂わせるのが三手。

全てフラッグの頭脳である彼女の作戦通りだった。



「無事に終わってなによりです。隊長、アルフ、2人ともケガはない?」


少し間をおき、アルフ達に合流しようと大部屋内に歩いてきたピンク色の髪をしたメガネの女性。

通信でブラック2と呼ばれていた女性だ。


「問題ない。アキもエーテルランプへの干渉と作戦立案ご苦労だった」


「もったいないお言葉。

さすがに研究所の複雑な構造とエーテルの流れからエーテルライトへの導力源を探し当てるのは難儀でしたけどね」


「隊長!お疲れさまです!」


通信でブラック3と呼ばれていた男も一階に降りてきて合流する。


「ご苦労だったバッファ。いい援護射撃だった」


「あ、ありがとうございます!」


「そうね。でもバッファ?

奇襲役が待ってましたのタイミング! なんて掛け声出すのは頂けないわよ?」


「ぐ……すみません…」


「まぁそういうなアキ。バッファが注意を引き付けてくれたおかげで事がスムーズに進んだ。

アキの狙った通りのアクションではあったわけだ。だがバッファ。無防備なのは変わりはない。次からは気を付けろ」


「……了解です」


「よし、アキは本部に連絡するように手配しろ。フラッグはこれよりこの武装連中を警備軍に引き渡す」



────────────────────



「以降の現場指揮、および武装集団の護送は貴殿ら警備軍に任せる」


オドンの辺境警備兵が集まり、アルフ達が降下したバル研究所の入り口でジンが警備兵長に引継ぎを行っている。

 

「では我々オドン帝国第4独立特殊部隊フラッグはこれより撤収作業に入る。あとは頼んだぞ」


「はっ!御協力感謝いたします」


捕縛された覆面の武装集団の合計人数は18人。

かなりの人員が必要な事もあり、それまでの警護も兼ね、気が付けば空が薄い青色になっていた。


「この度は助けていただき心より感謝いたします」


「いえ、こちらも任務ですので礼など不要です」


「まぁそうおっしゃらずに。先ほどに戦術、お見事でした」


「ご紹介が遅れましたな。

 当バル研究所の所長を務めさせていただいておりますカーウェン=オファルと申します」


「オドン帝国第4独立特殊部隊フラッグ、隊長のジン=ダグラスです。

 ……過去、エーテル発掘隊のカーウェン殿の事は大変存じております。」


「そのような時代もありましたな。

 こちらこそ大陸に名の轟く猛将、ジン=ダグラス殿の事は存じております」


「独立特殊部隊……14年前のあの日をきっかけに発足された隊も率いてらっしゃるとは……お目にかかれて光栄です。

 それに……先ほどの戦闘も鮮やかでしたが……何より驚いたのがそこの彼」


カーウェンはアルフの方を見て、少しの間を置いて再び話しだす。


「見た所まだお若い様子。

 その歳であれだけの任務をこなすとはいやはや驚くばかりです」


「いえ……まだまだ未熟な身です」


「そうご謙遜なさらずに。フフ……彼の将来が楽しみですなジン殿」


「まったくです……では我々はこれで」


そういうとフラッグの4人は現場に立ち去ろうとした。


「ああ……最後にひとつだけ。

 ……彼のお名前をお聞きしてもいいですかな?」


少年兵は再び振り返り、カーウェンに向かって左手を背に右手を左肩に寄せたオドン式敬礼をしながらこう答えた。


「オドン帝国第4独立特殊部隊フラッグ所属 アルフレッド=ホークマンです」



────────────────────

ウォルター通信号外


世界暦1615年 オドン帝国北部 バル研事件


エーテル学研究施設であるバル研究所を突如武装集団が襲い、研究所内に立てこもった。

それに応戦したオドン警備兵だが、7名が負傷、内1名が重傷。

のちに、オドン第4独立特殊部隊『フラッグ』によって鎮圧に成功。幸い民間人にけが人はなかった。


その後の取り調べに対し、武装集団は目的や動機について、沈黙を続けており、一部では破壊工作との見解が強いようである。

だがこれは解決ではなく"幕開け"だと誰も予想すらしなかった。


……ただ1人を除いて──





最新記事

すべて表示

32話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く16』

「ハァ──ハァ──ハァ──!」 森の中に散らばった、小さな枝木や落ちた枯れ葉を、縦横無尽に後ろに蹴り上げながら、セティナと仮面の男はウルジの森を走り抜ける。 死の淵に立った事、そして荒れた道を全力で走る──なんて事に慣れていないセティナの呼吸は、仮面の男に比べてわずかに荒くなっていた。 セティナの瞳に、褐色肌の男の背中と──そして肩から吊るして腰の後ろで揺れている、グルグルに巻かれた黄土色のラグマ

31話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く15』

「──リゾルテ」 褐色肌の男が、口元で小さくつぶやいた。 それはまるで、黒──いや白い色素をすべて反転させたかのように、不気味な三日月状の斬撃が空間を切り裂いた。 残像が瞬く間に消えていくとともに、セティナたちを包んでいた青いドームが、まるで壊れたステンドガラスのように破片となって地に落ちた。 その─無数に散った破片たちは、青い輝きを放ちながら拡散するように消えていく── 「────え」 セティナ

30話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く14』

セティナの指先が震えていた。 自身の眼で、初めて人の死を見た恐怖が体の感覚を鈍らせるのか、剣を手にとる事を防衛本能が止めていたのだろうか。 そんな自身の指先が震えてるの見て今、自身が置かれている状況を冷静に再認識しようとした。 ザヤックは恐怖のせいか、空虚を見るかのように前方を見ていた。 セティナは自身の斜め前で怯えているザヤックの横顔を見て、今できる──たったひとつの選択を精一杯叫んだ。 「──

Comments


bottom of page