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  • 執筆者の写真SHADOW EGG

6話『旧サルゴン基地のうわさ2』

「よしそろっているな」


セーフハウスの裏庭でアルフ達3人がジンを待っていた。

フラッグのホーム自体がサルゴン街の中心から離れている事、また立地が小さな丘となっている事でホームの裏で小規模な訓練程度なら可能となっている。

裏庭にだけ雑草が他と地面と比べて圧倒的に少なく、これは長い間ここで多くの人間が動き回っていており、雑草もこの範囲に生えても命の無駄だと諦めた結果なのかもしれない。

余談だがハウス裏の柱には小さく不格好な字で『ある』と何かで薄く掘られた痕跡が残っている。

ハウスから3人の顔を見ながら歩いて来たジンは位置に着くと第一声を放った。



「よし、これより基礎魔法訓練を行う──バッファ。まずは性質変換系統の魔術を言ってみろ」


「は?えっと……火(ファイ)、水(ミスト)、風(エアリ)、雷(レギ)、土(ストール)に光(レイ)あとは闇(ヴォイド)ですかね」



バッファ指で数えながら答えた。

この性質変換魔術と呼ばれる属性は一般的に時間をあらわす言葉としても使われているほど子供でも知っている常識だが、突然の名指しと当たり前な質問が相まって何か裏があるのかと、バッファ少しドキドキしていた。


「そうだな。なら我々フラッグや通信兵が中距離通話に使っているエーテル通信機を起動するための性質変換魔術は?」


「風(エアリ)の性質変換です。ま、軍学校卒業の必須技能ですね」


「そうだな──では次にアキだ。

エーテル通信機に風(エアリ)以外の性質変換を行ったエーテルを流すとどうなる?」


「もちろん通信機は壊れますね、そういう構造になってないはずですし何より暴発の危険があります。

対エーテルの対策もしないまま誤って水(ミスト)なんて入れてしまった日には耳とフラッグの予算が飛びますね。

ですからそれを防ぐために通信機製造のシャトー社は風(エアリ)以外のエーテルを防ぐ素材を使ってるみたいですが、まぁ気休め程度でしょうね」


「そうだな。ゆえに我々は通信機を使っての戦闘行動中は遠距離魔法を使うのを禁止にしてきた。

だからといって魔法そのものを使わない機会がないわけではないな?」


「おっしゃる通りだと思います」


「それがまずひとつ──では通信機から話を戻すぞ。

アルフ、『魔術と魔法』『マナとエーテル』の違いを答えてみろ」


「魔術が工程、魔法が結果です。

マナとエーテルは……しいて言うならマナが料金、エーテルが商品といった所ですか?」


「なるほど……通貨で考えるとは言い得て妙なものだな、アルフ。

おまえの得意魔法のファイアランスをそこのカカシに撃ってみろ、工程を全て口に出しながらだ。」


「え……あ、はい」


アルフは一歩前に出てスゥっと大きく息を吸いまた吐く事で集中し、右手を空に掲げた。


「まずは体内のマナで……大気中にあるエーテルに干渉……エーテルを火(ファイ)に性質変換」


アルフの髪が少し揺れ、アルフの右腕には赤い蛍火のような光が集まって来ている。

アルフ自身はその赤い光に温度を感じはしないが、他の部隊員はその光に熱量を感じ一歩下がった。

収束した赤い蛍火のような光が両手で覆えるほどの炎へと変わりエーテルを火(ファイ)に性質変換する事が出来た。


「次は魔法の現象ですね……動作系統魔術の『前進(フロン)』を体内のマナを使って発動させる……」


膝を曲げ重心を低く落とし、炎をまとった右手を正面にまっすぐと伸ばした。

丁寧に動作するように左手で右腕をつかみ、左手から右手に体内のマナを伝達するかのように集中した。


「いきます……ファイアランス!」


その叫びとともに微弱ながら前足を踏み込み、一瞬でアルフの左手から体全体に何かが伝導するような波動が波紋のように響き渡った。

アルフの髪が波動の伝達により跳ね上がるのと同時に、アルフの右腕から弾けるように炎弾が勢いよくカカシに向かって放たれた。

勢いよくぶつかったアルフの炎はカカシに直撃し、生物ではないゆえにエーテル耐性のないカカシは燃え始めた。


はやし立ての口笛を吹くバッファと、静かに見るアキ。

その直後、腕を組んで見ていたジンは小さく動いた。


「レイン」


ジンがそう言いながら左手から小さな水色の光が散っていった。

そしてカカシの真上から少量の水が小範囲で降り注ぎカカシの炎は鎮火される。


「はえぇぇ……」


ジンの水魔法の魔術工程の速さと精度に全員が驚いてる中、ジンは冷静にアルフに問いかけた。


「どうだアルフ、今までのファイアランスの感覚との差異はあったか?」


「……しいていうならマナ自体は使ってるはずなのにファイアランスだけいつもよりも疲れた……かもしれないです」


「だろうな、マナの性質は筋肉と近い、つまり使っている性質ほど伸び、使わずにいるとそれだけ性能は低下していく。

これが2つ目の理由だバッファ」


「へ?なんでそこで俺なんですか?」


「ふむ、どうしてだろうな?ならばアキ、最後の問題だ。なぜバッファだと思う?」


「恐らくバッファだけ『なんで今更訓練?』みたいな顔してたからと思います」


「ぐ…………」


「はは……」



「今後は魔法と通信機の兼用も視野に入れて能力と精度の向上だ。目的はわかったな?

よし光(レイ)と闇(ヴォイド)以外の五行の性質変換魔術の訓練から行っていくぞ。全員まずは火(ファイ)からだ」


「はい!」





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アルフはエーテル魔法

ファイアランスを使えるようになった──


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