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  • 執筆者の写真SHADOW EGG

7話『旧サルゴン基地のうわさ3』

フラッグのホームでは魔法訓練が休む間もなく続けられており、バッファは地面に大の字に、アキは座り込むように息を整えていた。

二人よりも長く火(ファイ)の維持を続けていたアルフもマナが尽き、右手の炎が消えると、まるでずっと息を止めていたかのように大きな息を吐きながら地面に手をついて力尽きた。

3人が呼吸を整える中、ジンも部隊員を見ながら土(ストール)の性質変換の維持を行っていたが、アルフが力尽きたのと同時に黄土色の光がうっすらと消えていった。


「ここまでだ、各員休息に入っていいぞ。

アルフも準備は息をゆっくり整えてからでいい、以上解散だ」


「ハァ……ハァ……はい……ハァ……」


ジンはハウスの入り口へと去っていった。

後ろ姿がどこかフッと小さく笑みをこぼしたかのように。


「ふぅ……2人ともおつかれさま。

アルフ、買い出しする物をある程度まとめておいたから隊長の言う通り急がなくていいわよ。

……ほらバッファはいつまで寝そべってるの」



「勘弁してくださいよ……俺今日任務で魔法弾撃ってるんですよ……」


「そんなの私もよ、そもそも戦闘要員ですらないんだけどねっ……と」


「いててて……ひっぱんないで……」


アキに引っ張られるようにバッファ達もハウスの中に入っていった。


エーテルの基礎変換魔術。

大抵は光と闇以外の得意属性の技術を伸ばすのが一般的であり、また複数の属性をまともに扱うのは魔法をなりわいにしてる人々くらいである。

それは属性変換の難しさではなく、属性変換を使っての前進(フロン)や拘束(タウラ)といった現象を引き起こす魔術が非常に難しいからだ。

複数の属性に複数の現象が絡むほど精度や熟練性が必須となる。


光と闇が例外であるのは、まず光(レイ)を扱う才と専門性の高さ。

それに光の回復魔法は何でも治してしまうような便利なものではなく、あくまで『治療を高速化させるもので、かけられた者は治療相応の体力を消耗する』というデメリットもある。

そして闇(ヴォイド)は魔獣が使うもので生物が扱う魔術ではないというのが常識である。

アンデッドなどのモンスターが使う事で知られているが、人が扱う事はない──



アルフはぐるっと仰向けになり息を整えながら静かに空を見ていた。

街の外れとは言え静かな空に陽の光が自身を照らし、まぶしさを隠すために自身の左腕を額に乗せるとふと澄んだ風の音が鮮明に聞こえた。

それはまるで昨日の緊迫がウソだったかのようだと思えるほどに。

息を整えながら何かに集中するかのように空に手を当て、少しだけ……ほんの少しだけ集中しながら指先でアルフは性質変換を行おうとした──



「……アル」



びっくりするように上半身のみ飛び起きたアルフは声をかけた方を見た。

ホームの柱の奥からバッファが歩いてきている。


「悪い、ビックリさせちゃったか?」


アルフはほんの一瞬キョトンとしたような表情をしたが、すぐにやわらかい笑顔でバッファに問いかける。


「いや全然。どうしたのバッファ?」

「買い出しの項目にひとつ追加しておいたんだけどよ、個人的なやつだから先に渡しておこうと思ってさ、わりぃな」


そういうとバッファは10ゴルドをアルフに手渡した。


「じゃあ頼むな」


(悪いな……?)


ハウスのテーブルにアルフ用の書き置きメモの一番下には"日刊ウォルター通信"と書かれていた──





──土(ストール)の刻にあたる少し前の時間となり、私服に着替えたアルフはジンとともにホームを出てサルゴン街の中心部に向かって歩いた。

すれ違うように街を歩く住人、兵隊ごっこをする子供たち。


「平和だな。まるでアレが嘘のようだ」


燃え崩れたガレキと死臭を放つ散らばる死体。

そんな絶望の光景があった場所の一部とは思えないほどに復興し平和を感じさせる街となっている。

ジンは今でも14年前の赤鷹事件による光景を覚えていた。


「いい事だよ、平和なのが一番だしね」


「……そうだな」


ジンは何か思う所がありそうに遠い視線の先は景色ではなく、アルフが軍に志願した日の事を思い出していた。


「どうしたの?」


「いやな。制止を振り切って意気揚々と軍に入ったわりには、ずいぶんと消極的な考えと思ってな」


「平和に前向きなだけだよ。……まぁ北方は紛争、中央は権力争い、南部はゲリラ。

どこもかしこも積極的だしね」


「そうだな。だがあまりにも平和過ぎると俺たちが路頭に迷うハメになるぞ?」


「そうなったらお店でも開いて静かに暮らしていけばいいよ」


「フッ……。開店への道のりは果てしないな。おっと……アルフはそこの雑貨屋か」


「うん、今日は戻ってくるの?」


「さぁな。どうもゲストは俺だけじゃないらしいからな。

戻れない時はホームに報告してもらうように通信兵に伝えておく」


「了解」


ジンと別れ、アルフは雑貨屋のドアを開き、中でアキからもらったメモに一通り目を通した。


(えっと買うモノは……ポーションに導力補充ビン、パン、オルバ肉……シプターツール線……

それと日刊ウォルターに……結構な量だな……)



正規のオドン警備軍には物資が本部からあらゆる決まった備品等が供給されるが、フラッグのような独自かつ緊急で動く部隊には供給品が限定されている。

そのぶん供給される予算内で独自に調達する必要があるため、必要な物資はアキの管理の元、買い揃えるようになっている。


「まいどあり!」


雑貨屋の店主の大きな掛け声とともに、雑貨屋の鐘の鳴るドアを開いてアルフは外に出て歩いた。

道中アルフの顔が見えないほどに詰め込まれた雑貨を抱えて歩くも、街角で一度荷物を置いて休憩をした。


「バッファ……わりぃなってこういう事……ね」


すると街角の裏道でサボるように世間話をしている警備兵の話声が聞こえてきた。



「おい、知ってるか?廃墟のうわさ」


「ああ、旧サルゴン前線基地に化け物が出るって話だろ?」


「まだあくまでうわさレベルらしいがな。念のためウチから偵察チームが編成されたんだとよ」


「うへぇ……元々ウチの拠点だった場所とはいえ、あそこ気味悪いんだよなぁ……」


「気持ちはわかるよ。14年前にかなり犠牲になった場所だしな……」


「おおかた化け物じゃなくって成仏できない亡霊だったりして……」



(旧サルゴン基地に怪物……?)



少し気にしながらアルフは再び大量の荷物を抱え、日の沈むホームの方へと歩いていった。




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