top of page
  • 執筆者の写真SHADOW EGG

9話『旧サルゴン基地のうわさ5』


旧サルゴン前線基地──


かつてオドン領西部の都市サルゴンよりさらに西部に存在した前線基地。

14年前の赤鷹事件の被害により旧サルゴン基地は壊滅し、放棄された土地である。

石材やレンガで積み上げられた中央部の建物は残っているが、それ以外の建物はまるで1階の天井付近から上が全てが切り取られたかのように建物内部があらわになっている。

巨大な力で消滅したかのような建物跡、あちこちに散っているガレキの建材、海に近い事もあり冷たく湿っており、いつになく霧で視界が狭く感じた。


先行偵察として一人旧サルゴン基地に到着したアルフは思考をめぐらせていた。


(今ある情報は『化け物が出るってウワサ』と『消息不明の5人の警備兵』……順当に考えれば魔獣に襲われたという線かな。

優先は警備兵の救出……大声は……出さない方がいいか……まてよ?警備隊の通信機が無事なら、波長が合えば反応するかも)



アルフは通信機を取り出し、それを耳に当てる事なく手にとったままエアリ(風)で通信機を反応させた。

通信機ごとに風の周波数が違うため、ゆっくりとエアリの周波を調整しながら耳を傾ける。



……


…………


ジ……



思いのほか近くの壁の向こうからわずかにノイズが鳴った気がした。

アルフは念のため剣を構え、ジリジリと壁に近づき、壁奥を確認すると血まみれで傷だらけの警備兵を発見した。


「……あ………………」


急ぎ治療のポーションを取り出し警備兵に飲ませようとしたが、フッと警備兵の魂が消えていくようにそのまま息絶えてしまった。


「くそ……もうちょっと早かったら……」


目前での人の死にアルフは一瞬だけ動揺した。……が、すぐさま一度の深い呼吸で冷静を保とうとした。

ジンに口酸っぱく『何があっても焦るな』と教えられてきたからだ。

簡易的に片腕だけの敬礼を行い、兵士の冥福を祈った。

そして兵士の傷から、化け物と呼ばれるモノの正体の考察をしながらも、ここ旧サルゴン基地の空気に緊張を感じていた。


パキッ


素早く構えた。

木の枝が折れる音の方向からひとりの男が歩いて来る。


「アルフさん……でしょうか?」


目の前には黄色い髪に冒険者風のかっこうをした青年が立っていた。


「あなたは?」


「は、失礼しました。本部より派遣されて参りました、中部フォーランゲルの警護隊所属ミハエル=ファレンスと申します」


「……オドン帝国第4独立特殊部隊"フラッグ"アルフレッド=ホークマンです」


アルフがそう名乗るとミハエルと名乗った男は静かに驚くようにアルフを見ていた。


「……?」


「あ……いえ、失礼しました。

予想してたよりもお若いようで……ああ、すみません否定的な意味ではないんです。

お気を悪くされたら申し訳ないです」


「いえ、気にしないでください。それより中部の方がなぜサルゴンの緊急任務に?」


「いろいろ事情がありまして……経緯は道中にでも。そういうわけでよろしくお願いいたします。

うわさのフラッグ隊の実力、この目で拝見させて頂きます」


「こちらこそよろしくお願いします、ミハエルさん」


「それにしても……彼は……」


「ええ、傷口を見る限りどうやら魔獣にやられたみたいです」


ミハエルは死体をひととおり見た後、立ち上がり静かに辺りを見渡した。


「感じますか?ミハエルさんも」


「ええ・・・妙な違和感が。いや、むしろ何もないのが不自然過ぎるというのが正しいでしょうか?」


(そうだ……なんだろう……この感覚。以前もこういう感覚を体験したような……)


「とにかくまだ生存者がいるかもしれません。警戒しながら探索していきましょうアルフさん」


「わかりました」


戦場に身を置いた事のある人間にしかわからない空気。静かすぎる事に違和感を感じ、危機を逃れる事もある。

まだそれを明確に察知できるほどの経験値はアルフにはまだないが、大きな危険が確実にあるにも関わらずここまで静かなのは誰でも不気味に感じるだろう。

さっき見た死体の傷口を見るかぎり、魔獣の線でほぼ間違いないと2人は考えていた。


アキからの情報だと、偵察に来た警備兵の小隊は5人。

全ての警備兵を探すために2人は警戒をしながら巡回するように残り4人の警備兵を探した。



基地の敷地内を探索しながらアルフはふと横目でミハエルを見た。

本部からの増援が来るとは聞いていたがミハエル一人だけとはアルフも予想はしていなかった。

それほど帝国の人員が不足しているのか。また動けない理由があるのか?



「どうして私一人だけ?それも中部の人間が?って顔をしていますね」


ミハエルの問いにアルフは正直に答える。


「いえ、中部に関しては大体納得出来てます」


「……宜しければその考察お聞きしても?」


「警備隊(けいび)ではなく警護隊(けいご)という事は要人警護の任で中部からサルゴンに来た。

ウチの隊長が昨晩他にもゲストが来ると言ってたので恐らくその辺りの人物が妥当かと。

隊長を借りてしまってる礼のようなもので命令系統を省略で即時派遣できるミハエルさんを動かした……なんて所ですか?」


ミハエルは口を開け静かにアルフを見ていた。


「検討違いですか?」


「あ、いえ……その逆です。読みも的確。

さすがはあのジン殿率いるフラッグ隊……感服いたしました」


そういうとミハエルは棒状の武器を取り出した。

真ん中で持ち手となっており、両先端にエンチャント加工された魔法文字のような紋様が刻まれている。


「それと私自身が前衛、治療、後方支援とわりかし器用貧乏でして……誰とでもそこそこ合わせるのが得意なんです」


「治療?というと光(レイ)の魔法も?」


「ええ、なのでアルフさんは前衛のようですし、万が一交戦した場合はフォローの位置に回りますね」


「助かりま……あ……」



中央の建物に向かうための通路に警備兵だったと思われる肉片が散らばるように転がっていた。

まるでバケツ一杯のペイントを地面と壁に大きく投げつけたように2つの血痕がこびりついている。

問題はコレが『いつ』そうなったかだ。


アルフ達は簡易的ではあるが敬礼をし、探索をつづけた。

互いの話をしながら緊急時の連携性を確認しつつ、アルフ達は鍵のかかった旧基地の中心にある建物の中に入っていった。

所々欠けた壁からぼやけた光が差して、視界は確保できるようだがアルフは木を燃やしたいまつ代わりに明かりを炊かした。

1階、そして2階も特に何もなく基地の地下を捜索していた時──


「あ、あんたは?」


地下牢の奥から震えたような声が聞こえた。


「良かった……無事だったんですね。フラッグ隊のアルフレッドです。

本部からの緊急要請により先行捜索隊として派遣されました」


「は……はは……助かったのか……」


ケガをしているのか恐かったのか、警備兵はうまく立ち上がれずによろめいた。

アルフは警備兵に手を差し伸べ手助けをした。


「すまない……。自己紹介が遅れたな。オドン西部警備隊コリンズ=ペスだ」


「一人だけですか?」


「一人はわからない……なんせ『アイツ』に合う前にはぐれちまったからな……

それ以外のやつらは多分みんなアイツに……」


警備兵コリンズの言うアイツが化け物の正体なのだろう。


「ところであんたら……二人だけでここまで来たのか?アイツはいなかったのか?」


「いえ……コリンズさんの言うような魔獣の姿も形跡も特に見当たりませんでした」


「な……どういう事だ……?」


「もうこの場にいないという可能性も否定はできませんが……」


「そうか……!だったら今が逃げ出すチャンスかもしれないな……!」


(本当にそうだろうか……?それにしてはこの基地全体から異様な空気を感じる……)


「どちらにせよ、用心する事に越したことはありません。警戒しながらここを脱出しましょう」


「わかった。よろしくたのむよアルフさん」



3人はいったん外に出るために基地の入り口へと向かって行った。

だが入り口に向かえば向かうほどアルフの思考が違和感に引っ張られていく。


(やっぱりそうだ……この緊張感……静寂……この感覚……前にもどこかで)


「……アルフさん?どうかしましたか?」


「あ、いえ……先を急ぎましょう」


(そうだ……この感覚は……前に……)


3人は入り口の扉を開き外に出た──

最新記事

すべて表示

32話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く16』

「ハァ──ハァ──ハァ──!」 森の中に散らばった、小さな枝木や落ちた枯れ葉を、縦横無尽に後ろに蹴り上げながら、セティナと仮面の男はウルジの森を走り抜ける。 死の淵に立った事、そして荒れた道を全力で走る──なんて事に慣れていないセティナの呼吸は、仮面の男に比べてわずかに荒くなっていた。 セティナの瞳に、褐色肌の男の背中と──そして肩から吊るして腰の後ろで揺れている、グルグルに巻かれた黄土色のラグマ

31話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く15』

「──リゾルテ」 褐色肌の男が、口元で小さくつぶやいた。 それはまるで、黒──いや白い色素をすべて反転させたかのように、不気味な三日月状の斬撃が空間を切り裂いた。 残像が瞬く間に消えていくとともに、セティナたちを包んでいた青いドームが、まるで壊れたステンドガラスのように破片となって地に落ちた。 その─無数に散った破片たちは、青い輝きを放ちながら拡散するように消えていく── 「────え」 セティナ

30話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く14』

セティナの指先が震えていた。 自身の眼で、初めて人の死を見た恐怖が体の感覚を鈍らせるのか、剣を手にとる事を防衛本能が止めていたのだろうか。 そんな自身の指先が震えてるの見て今、自身が置かれている状況を冷静に再認識しようとした。 ザヤックは恐怖のせいか、空虚を見るかのように前方を見ていた。 セティナは自身の斜め前で怯えているザヤックの横顔を見て、今できる──たったひとつの選択を精一杯叫んだ。 「──

Comments


bottom of page