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32話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く16』
「ハァ──ハァ──ハァ──!」 森の中に散らばった、小さな枝木や落ちた枯れ葉を、縦横無尽に後ろに蹴り上げながら、セティナと仮面の男はウルジの森を走り抜ける。 死の淵に立った事、そして荒れた道を全力で走る──なんて事に慣れていないセティナの呼吸は、仮面の男に比べてわずかに荒く...

SHADOW EGG
2023年6月1日読了時間: 7分
31話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く15』
「──リゾルテ」 褐色肌の男が、口元で小さくつぶやいた。 それはまるで、黒──いや白い色素をすべて反転させたかのように、不気味な三日月状の斬撃が空間を切り裂いた。 残像が瞬く間に消えていくとともに、セティナたちを包んでいた青いドームが、まるで壊れたステンドガラスのように破片...

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2023年5月17日読了時間: 6分
30話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く14』
セティナの指先が震えていた。 自身の眼で、初めて人の死を見た恐怖が体の感覚を鈍らせるのか、剣を手にとる事を防衛本能が止めていたのだろうか。 そんな自身の指先が震えてるの見て今、自身が置かれている状況を冷静に再認識しようとした。...

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2023年5月10日読了時間: 10分
29話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く13』
セティナ達は、その後も森を歩きながらも幾度(いくど)か魔獣達と交戦した。 このあたりの魔獣が脅威的ではないとはいえ、そのたびに、王族であるはずのセティナも率先して剣を取り、その身で魔獣を蹴散らした。 そんな彼女の姿を見てか、ザヤックとボミーは、セティナに敬意を持つようになっ...

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2023年5月3日読了時間: 9分
28話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く12』
ウルジの森── ヴィラノ修道院と南のホルン村をつなぐ森林街道。 街道といっても町同士をつないでいる整地をされたような道ではなく、雑草の少ない土の部分を道と称しているのだ。 森や草木は普通であるならば緑色であるはずなのに、木の枝に張り巡らされた葉は緑ではなく不思議と深海のよう...

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2023年4月26日読了時間: 6分
27話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く11』
学長室の前で、細い指先は木造の扉を心地のいい音で2度たたいた── 「はい」 音のこもったマザーエレアの声が扉越しに聞こえた。 「セラです」 「おはいりなさい」 セティナが木造の扉を開けると、いつものように大きな机の向こうにマザーエレアが椅子に座っていた。...

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2023年4月19日読了時間: 7分
26話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く10』
修道院の階段を降り、木造りの宿舎へと2人は歩いていた。 両手を自らの腹部に重ねて姿勢よく歩くセティナと、フラフラとしてるもののどこか活発に歩くミリアリア。 ミリアリアは自らの口元に手をそえ、セティナの耳元でつぶやいた。 「ね、それでどうだったの?立志の儀は?」...

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2023年4月12日読了時間: 6分
25話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く9』
マザーエレアはおだやかな表情で、中腰でセティナへとゆっくり手を差し伸べた。 セティナが目を開いたのは、地下の大聖堂だった。 「気分はどうかしら?セラ」 「マザーエレア……?あの……わたくしは……?」 目覚めのように記憶が曖昧なセティナはマザーエレアの手を取りながら、あぜんと...

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2023年4月5日読了時間: 4分
24話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く8』
自身に襲い掛かる黒霧の狼。 セティナは、ほんのわずかに自身の足元に視線を送ると何かを確認したが、すぐに敵対する相手へと視線を戻した。 彼女はレイピアを下から上段へとたたき上げると──黒霧の狼は軽々と打ち上がった。 打ちあがったという事は、黒霧の狼に『重さ』という概念がある。...

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2023年3月29日読了時間: 5分
23話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く7』
第23話『アルメリアの鐘は悲報に鳴く7』 3日前──アルメリア王国領北西部、ヴィラノ修道院── まだ夜も明けない時刻。 灰色のレンガでできた渡り廊下を細いブーツが一歩、そしてまた一歩と進んでいく。 『黄土色の鐘の揺れは、その鐘から広がる音の残響さえもどこか不気味に揺れている...

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2023年3月22日読了時間: 7分
22話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く6』
先ほどまでの緩んでいた自由な沈黙とは異なり、隊員達は統率された沈黙を保っていた。 左舷に立つアルフは両手に武器をとっており、反対に右舷に立つジンは両腕を組み目を閉じている。 両者の間に位置するバッファは、しゃがみながらも揺れる船体で自身とボウガンを多角的に素早く固定させる体...

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2023年3月15日読了時間: 6分
21話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く5』
「はぁ……」 船首で退屈そうに手すりへともたれ掛かってるバッファは、眠そうな目で海を眺めていた。 見える景色は青い波とほんの少し霧の混じったような空。 そして聞こえる音は波の音ばかり。 センチメンタルや風情を感じる感性がなければ飽きるのも当然なのだろう。...

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2023年3月1日読了時間: 4分


20話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く4』
群れた海鶴達の影が、薄くステンの頭上を駆けていく。 舵を片手にステンは日の光から腕で目を隠すように上空を見上げると鼻をすすった。 (いいニオイだな──風の機嫌がいい。……このままでしばらくは問題なさそうだな) 「アル!しばらく休憩してていいぞ!」...

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2023年2月15日読了時間: 5分


19話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く3』
サルゴン街を東にいけば、先日アルフ達が死闘を繰り広げた旧サルゴン前線基地があり、さらに東に行くと港といえるほどではないが、船を止めるためのさん橋が並んでいる。 そして旧サルゴン前線基地の北西には以前、アルメリアやテリドアへ抜けるための広い大地が存在していたが、14年前の未曽...

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2023年2月8日読了時間: 4分


18話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く2』
「概略を説明する」 食後のテーブルを囲むように座っている隊員達に向かって、ジンが作戦内容を説明していく。 「全員、先日起こったバル研事件の出来事はまだ記憶に新しいな?3日前、われわれが帝都フォーゲランデで任務を終え、列車でサルゴンへ帰還途中、緊急通信の応援要請によって、急き...

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2023年2月1日読了時間: 5分


17話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く1』
「おはよう副長」 個室が並ぶ廊下からホームの1階へと降りる階段をゆっくりと降りていくアルフ。 「おはようアルフ。よく眠れた?体の調子はどう?」 「うん、特に問題はなさそうかな」 「そう。もうすぐお昼時だけど朝食はどうする?」 「お昼にみんなと一緒でいいよ」...

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2023年1月25日読了時間: 7分


16話『旧サルゴン基地のうわさ12』
古来より全ての攻撃の動作には流動性というものが存在する。 特にアルフのように遊撃としての立ち回りが多く求められるとなると、連撃そのものの速さ、そして決められた1パターンの連撃ではなく初手から次の2手目の選択肢が多くて困る事はない。...

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2023年1月18日読了時間: 4分


15話『旧サルゴン基地のうわさ11』
人で賑わうサルゴン街も夜更けとなると人通りは少なくなるせいか、街灯の明かりと見張りの警備兵がやけに目に入る。 街の中心部からやや北の辺りに歩いた場所に、サルゴンに在留する警備軍を取りまとめる軍本部の大きな敷地があり、警備隊などの軍部に属する人間の書類、査問、訓練、人事の通達...

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2023年1月11日読了時間: 5分
14話『旧サルゴン基地のうわさ10』
鳥が鳴いた── そう勘違いしてもおかしくないほどに、高い音から空気の摩擦と音の伝導によって低く音程が落ちるとともにアルフ達の場へと迫る。 鳥が餌と定めたターゲットが見せた一瞬の隙に食らいつくように、ソレは突然魔獣の背に刺さった──...

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2023年1月4日読了時間: 6分
13話『旧サルゴン基地のうわさ9』
何が起こったかもわからず、まるで開けた口を閉じる事さえ忘れたかようにコリンズは魔獣がいるはずの空を見ていた。 仮にあの豪火球とも呼べる黒みを帯びた炎が人体に当たれば破裂──そう思わせるほどの勢いのある火球が空中の魔獣へと命中し、その巨体は地のガレキへと吹き飛ばされた。...

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2022年12月28日読了時間: 7分
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