top of page
  • 執筆者の写真SHADOW EGG

13話『旧サルゴン基地のうわさ9』

何が起こったかもわからず、まるで開けた口を閉じる事さえ忘れたかようにコリンズは魔獣がいるはずの空を見ていた。


仮にあの豪火球とも呼べる黒みを帯びた炎が人体に当たれば破裂──そう思わせるほどの勢いのある火球が空中の魔獣へと命中し、その巨体は地のガレキへと吹き飛ばされた。

魔獣の墜落(ついらく)とも言える衝撃は、地を経てミハエル達の肌へと振動が伝わった。


ばくぜんと燃えている魔獣を見るよりも、もっと大事な何かを思い出したかのように、コリンズは火球の出どころを振り返った。

しばらく閉じる事を忘れていたはずのコリンズの口は、視線の先を確認する事で閉じていった。

自然に両頬が上がると、自分でも気づかないほどにも小さく芯のある息が出た直後、コリンズは静かに声を漏らした。


「……だよな……」


コリンズは視線の先は、ぽっかりと崩れた基地2階の空洞。

室内の黒い影と、木漏れ日の優しい光のはざまで斬られるかのようにそこには赤髪の少年の姿があった。

額から血を流し、服や肌もあちこちと焦げたように破れ、大きく肩で激しく呼吸をしている。

それでも腰を落とし、煙の出ているまっすぐに伸ばした右手を全身で支えるように、今にも崩れてしまいそうにパラパラと破片が落ちる足場で少年はまだ戦場に立っていた──



────アルフ達が分断され、ファイアランスを撃つ直前に魔獣による尾のフェイント攻撃をくらった際、アルフはファイアランスを撃つ動作を完全には止めていなかった。

勘なのか反射的なのか、アルフ自身もそれが本当に最適解なのかもわからないまま、アルフはその場で尾が来る同じ方角へと小さく飛んだのだ。

少しでも衝撃を減らすために、膝を曲げ、足裏を尾に当て、まるで魔獣の尾の攻撃を利用して飛ぶかのように。

本来なら横から尾が直撃しその反動で壁に激突し肉塊になっていた所だったが、やや斜め上の角度に吹き飛ぶ事でまずは衝撃ダメージを減らす事に成功した。


しかしアルフレッドという少年の見せた才能の真価は、この後の壁への衝突ダメージ回避方法にあった。

アルフはサルゴン基地の2階外壁に衝突する瞬間、自分と壁の間を狙ってファイアランスを撃った。

ファイアランス自体が小さな大砲のような性質をしているため、それゆえいつもアルフは腰を落とし左手で右手を支えるようにして撃っているが、直感的にまだ致命打の域を出ないと思ったのかほんのわずかに左手からの伝導で少し風(エアリ)の性質変換を混じらせたのだ。

ファイアランスが放たれた瞬間に自身に発生する衝撃を風(エアリ)によって増幅させる事で逆側への衝撃を発生させた。

その結果、衝撃を減衰する事で致命傷を避ける事に成功した。

アルフの放ったファイアランスによる爆発が、コリンズ達が見た爆発の正体だったのだ────



だが自分が放ったファイアランスのエーテル自体によるダメージは自身には被害がないとはいえ、物理的な爆発と殺しきれない衝撃ダメージ、慣れない風(エアリ)の現象操作で減衰の精度も完璧とはほど遠かった。

既にアルフは満身創痍で、かろうじて意識があるような状態であり、遠くながらイチ早くそのアルフの状態に気づいたミハエルは声を発した。


「コリンズさん!走って!」


ミハエルの一声にコリンズは『どこに?』などと疑問さえ持つ事もなく手に持っていた剣を落とし、上の鎧を取り外しながらまっすぐアルフの元へと走った。


「赤の印(ロート)!」


コリンズの体は黄色い光がうっすらと浮かび筋力が強化された事でさらにグンと早く駆け込む。

アルフの最後の一撃は、コリンズを助けるために火球を気力だけで魔獣に撃ったようなもの。

当然気力だけで立っていたアルフの目がゆっくりと閉じ、前に倒れ込むと2階からアルフは落下していった。


コリンズにとって今まで人生の中でもっとも速く、そしてもっとも醜い顔で走ったかもしれない。

そんな大層な志を持って警備兵になったつもりはなかったはずなのに、あの少年の背中が自分の何かに刺さった。

せめて最後くらいは──少しだけでも──彼を助けてあげる手でありたい。


勢いよくコリンズが飛び込み、落ちて来るアルフを受け止める事に成功し抱きかかえると、そのままアルフを守るかのように背を壁にぶつけるかのように着地した。


「いってぇ!けどよし!ミハエルさん!」


ゆっくり走りながらもミハエルはエンチャントタクトの先端を光らせながらコリンズ達の元に到着すると同時に治癒魔法を行った。


「月光!」


月の光がほんのわずかな結晶になったように温かな収束した光がアルフに当てられ、体中の傷が少しずつ消えていく──

回復魔法は治癒細胞の超加速と言われている。

ゆえに自然回復による治療範囲内であれば即時に治療は行えても、回復に必要なスタミナ体力までは補えないが──


治癒が終わるとアルフが目を覚ますまで、そう大して時間はかからなかった。

だがほんのわずかな時間だったが二人にとって長く感じ、そんな中アルフはゆっくりと目を開いた。


「アルフくん!」

「アルフさん!」


アルフの視界へと最初に映ったコリンズの表情はすごく必死で、ミハエルはあんどしたかのように深い呼吸をゆっくりとはいた。

コリンズと目が合うと、眉間にシワが寄りながらも顔を隠すかのように上を見上げた。


「すげぇよ……君は……」


上を向いたままのコリンズの声は震えたようで、一粒の水滴にアルフは雨が来るのかとうっすらと感じた。


アルフはだんだんと意識が戻ると油断を消し、すぐさま冷静さを取り戻しつつ、コリンズの元から立ち上がると少しだけよろけながらも状況の確認に入った。


「魔獣は!?」


まるで手で降って来た雨をぬぐうかのようにコリンズが顔をこすって話し出した。


「ああ、魔獣なら──」



──咆哮。


その音はコリンズにとって、時間が止まり周りの景色全て黒色に感じてしまうほどに絶望に陥れる音だった。

耳が痛くなるほど聞き覚えのある音の鳴る方角を見ると、身体部位がいまだに火で焼かれながらも、こちらを見つめる魔獣の姿があった。


「……いよいよまずいですね」


「……ですね」


コリンズは手元に武器も鎧もなく、ミハエルはマナを消耗、アルフは全てを消耗している状態。

再度戦闘を展開するにはあまりにも無謀な状況。

しかしこちらを視認してもすぐに仕掛けてこない魔獣にミハエルは疑問を抱いていた。


(なぜヤツは動かない……?動けない……ならどうしてわざわざ咆哮で威嚇を……?まだ何かある?……あの巧妙なヤツが……巧妙?)


何かに気づいたかのようにミハエルは周りを見渡した。

アルフやミハエルがこの旧サルゴンの基地に着いた時に霧で視界が悪い事を認知していた。


──海に近い事もあり冷たく湿っており、いつになく『霧』で視界が狭く感じた──


しかし先ほどまでの交戦時は『霧』に対してまったく意識をしておらず、つまり『霧』を意識するほどは存在しなかったという事。

なのに減っていた霧が再びほんの少しだけ濃くなっている。

変異体であろうが魔獣は魔獣。今までその手を一度も打ってこなかった。

もし……この霧をアイツがエーテルで作り出しているなら──


「水(ミスト)!?」


「え?」


ミハエルが声を出すと同時に、旧サルゴン基地一帯の霧がアルフ達の上空に収束し、小さく無数に固形と化した氷のツブテが吹雪のようにアルフ達に襲いかかった。

アルフ達は氷のツブテから目を守るために顔の前で両腕を平たいクロス状にし、身を守った──


しかし、それが仇となった。


ダメージとしては単純に痛い程度のもの。

しかし氷のツブテが体をかすめた際、アルフ達のいたる所の身体部位へとエーテルの『現象』による干渉で凍ってしまい、身動きをとる事ができなくなっていた。

無理に動かせば──


「ミハエルさんコリンズさん!今すぐ火(ファイ)で溶かします!熱いけど我慢してください!」


「ダメですアルフさん!恐らくあなたのマナが──」


アルフが慌てて指先にエーテルを収束させようとしたがミハエルの言ったようにファイが発動する事はなかった。

そしてマナの枯渇した状態で無理にエーテルを発動させようとしたアルフは、瞳孔が開くとともに猛烈な吐き気と頭痛に襲われる。


「う……あ……げほっ……!あう……」


「アルフさん!」


あがくアルフ達を目掛けて、魔獣がゆっくりとこちらに歩いてくる。

よほどアルフの放った空中での一撃が効いたのか、余裕ではなくきっとあの魔獣にとってもおそらく最後の一手だったのだろう。

それを察知してまた読み間違えた事に後悔する。


(く……手元も凍ってアウラスも動かせない……!なら……)


ミハエルがすぐさま自身の氷をファイで溶かそうとするが、アルフほどの火(ファイ)の性質変換の速度も精度も高くはない。

アウラスと呼ばれたエンチャントタクトを動かせるように指先からひとつひとつと氷を溶かしているが──


(間に合わない……!)


魔獣がアルフ達への攻撃範囲で立ち止まり、トドメの一手を打とうとしている。

目を光らせ、凝視をしまるで俺の勝ちだと言わんばかりに。


(……レ………ダ……)


(……え?)


アルフはどこからか声が聞こえた気がした。

勝利を確信したのか、魔獣はゆっくり尾をしならせる。

高く飛びあがり、アルフ達を踏みつけて殺すだけでこの戦いは魔獣により勝利で終わる。


そして今、魔獣が跳ね上がろうとしたその時──




最新記事

すべて表示

32話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く16』

「ハァ──ハァ──ハァ──!」 森の中に散らばった、小さな枝木や落ちた枯れ葉を、縦横無尽に後ろに蹴り上げながら、セティナと仮面の男はウルジの森を走り抜ける。 死の淵に立った事、そして荒れた道を全力で走る──なんて事に慣れていないセティナの呼吸は、仮面の男に比べてわずかに荒くなっていた。 セティナの瞳に、褐色肌の男の背中と──そして肩から吊るして腰の後ろで揺れている、グルグルに巻かれた黄土色のラグマ

31話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く15』

「──リゾルテ」 褐色肌の男が、口元で小さくつぶやいた。 それはまるで、黒──いや白い色素をすべて反転させたかのように、不気味な三日月状の斬撃が空間を切り裂いた。 残像が瞬く間に消えていくとともに、セティナたちを包んでいた青いドームが、まるで壊れたステンドガラスのように破片となって地に落ちた。 その─無数に散った破片たちは、青い輝きを放ちながら拡散するように消えていく── 「────え」 セティナ

30話『アルメリアの鐘は訃報に鳴く14』

セティナの指先が震えていた。 自身の眼で、初めて人の死を見た恐怖が体の感覚を鈍らせるのか、剣を手にとる事を防衛本能が止めていたのだろうか。 そんな自身の指先が震えてるの見て今、自身が置かれている状況を冷静に再認識しようとした。 ザヤックは恐怖のせいか、空虚を見るかのように前方を見ていた。 セティナは自身の斜め前で怯えているザヤックの横顔を見て、今できる──たったひとつの選択を精一杯叫んだ。 「──

Comments


bottom of page