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  • 執筆者の写真SHADOW EGG

14話『旧サルゴン基地のうわさ10』

鳥が鳴いた──


そう勘違いしてもおかしくないほどに、高い音から空気の摩擦と音の伝導によって低く音程が落ちるとともにアルフ達の場へと迫る。

鳥が餌と定めたターゲットが見せた一瞬の隙に食らいつくように、ソレは突然魔獣の背に刺さった──

それが『矢』だとミハエル達が認識する前に、着弾とともにさく裂し小規模の爆発が起こる。


ミハエルとコリンズはその爆発が何によるものなのかは理解はできずに目を見開いていたが、ただ一人アルフだけはその『さく裂矢』の正体を知っている。


「……遅いよ」


皮肉のような言葉とそれに反するように安心を感じるようにアルフは目をゆっくりと閉じた。


レンズの光が反射する。

アルフの目前にいる魔獣の背より、はるか遠くの高台のような丘からこちらを見ている者達がいた。

地に伏せるようにボウガンのレンズをのぞいて構えるバッファとその傍に立つアキの二人だった。


「──命中」


ピンク色の長髪を風になびかせながら、両手で硬い革細工と透明のレンズで作られた双眼鏡でバッファの放ったさく裂矢の着弾先をのぞきながらアキは冷静に一言だけを発した。

バッファはその言葉に反応する事なく地に伏せ、黙ったまま、大型のボウガンに取り付けた遠視レンズから視線を外す事もなく次弾の矢を装填している。

アキは耳に装着した通信機に右手を当て独り言のように話し始めた。


(……こちらブラック2よりブラック1へ。

アルバトロスは放たれた。繰り返す、アルバトロスは放たれた)


「……それ意味あるんすか?」


「ま、形だけでもね。あとは任せましょうブラック3」


任せる相手がアルフ達の元にたどり着くまでのわずかな時間を、さく裂矢で稼げた事を確信したアキは、最後の一手をすべて彼に任せた。

アキが考案してきたフラッグ隊の任務における電光石火の指針は彼の戦闘スタイルが基盤となっている。


足のかかとが地を蹴るとともに、空気と雑草が揺れる──

ほぼ同時と言っていいほどに空中で魔獣の左胴体に一人の男がミハエル達の視界に入った。

アルフと同じ服を着ており、軍事かいわいではその名を知らぬ者はいないほどの戦士。


フラッグ隊隊長、ジン=ダグラス。


空中で右肩を引き、身体をひねらせほんのわずかにフッと呼吸を止めると魔獣の胴体の芯と思えるポイントを狙い、全身のひねりの反動を利用するかのように右手で掌底を撃った。

その一打が魔獣に触れると、衝撃の伝達を可視化するかのように薄い円状の波動がハジけ、その衝撃は魔獣の芯を捉える。


どんな熟練者が掌底を打っても鳴りえないパァン!という聞き慣れない音とともに、魔獣はアルフ達の視界外から消えるように吹き飛んだ。

基地の外壁を貫き──建物の内部の柱をも砕き──さらに奥の壁へと衝突し、建物が壊れていく音が何度も基地中に響き渡る。


その一撃はアルフがずっと何度も見てきたジンの体術技『オーラショック』


まるで何事もなかったかのうようにジンはその場に着地をした。

その静かな着地は、掌底によって発生したエネルギーを余さずに魔獣へと伝えたというジンの突出した戦闘技術の練度の高さを物語っている。


ジンは表情をなにひとつ変える事もなくアルフ達の方を静かに見た。

アルフ、コリンズ、ミハエル、魔獣。

この4つの中から瞬時に優先順位の組み立てを的確に行い、それを順位実行していく。

瞬時にジンの左手には普通の火(ファイ)ではなく、温かい赤いオーラ光のような光源が浮かび、魔獣の氷によって身動き出来ない3人の中でミハエルを優先して放るとミハエルの凍り付いて所がみるみると消えていった。


「頼んだ」


ミハエルへその言葉を発した時にはすでにジンの視点の先は基地の内部にいる魔獣に向けられていた。


「……はい」


ミハエルの返答と同時にジンは消えるように走り出した。

基地内部にいる魔獣に向かって加速を続け前かがみとなり、さらにに身体を落とし、水色と紫色の混じったように光の集まる右手の先を貫く矛のように構え、まるで全身が全てを貫く巨大なランスのように──


基地内部で漏れる光と暗闇の中、血しぶきが魔獣から噴き出した。

ジン=ダグラスの手槍は魔獣の胴体を静かに貫いていた。

獣の胴体に空いた空洞とも言える傷口から出た返り血をジンは浴びていた。


すでに静止したその獣は、静かに、ただ静かにその生命を終えた。

フラッグ隊の手によって旧サルゴンのうわさの元凶となっていった脅威も同時に終わったのだ。


ジンは貫いた手を戻すと、獣の死体を見たまま黙って立っていた──────



日の沈む夕焼けが人や建物の影を大きく伸ばす中、アルフ達はミハエルによって治療され、ジン、そしてバッファとアキが合流し状況確認を行っていた。


「……魔獣じゃない?」


アルフ達がジンに不思議そうに問いかける。


「そうだ」


「……魔獣と生物の明確な違いは死の際に遺体が残るか残らないか。魔獣は死の際に黒い灰のように身体全体の構成されている全てが消え、逆に生物は死骸が残る。

つまり隊長がトドメを刺して亡骸が残った事実だけを見れば、アレは魔獣ではなく生物に属すると言うわね」


「でも、実際に僕たちが戦ったアレは魔獣の中でも特異のものだった。ドラゴンやラプター、あとはオルバのように生物としての一貫性がないように見えた。あれが生物……?」


「そうアルフの言いたい事もわかるわ。レンジスコープで見たくらいだけど私も魔獣だって思うもの」


「それに見た目だけじゃない。アイツには間違いなく知恵……というか思考があった。」


「思考?」


「ええ、私たちと戦ってる際にまるで心理戦を行うかのような駆け引きを何度か。それもかなりずる賢い思考でした」


「狡猾な思考を持つ魔獣のような生物……まったく、本部になんて報告すればいいのかね」


「本部といやぁでも本来俺たちは対人部隊ですよ。もうこういう任務はこりごりですよ」


「そうも言ってられないよバッファ。現にコリンズさんの仲間が犠牲になってるんだ」


「あ……すみません俺……」


「いや、気にしないでください。皆さんが仇を討ってくれたおかげでアイツらも浮かばれます。

本来ならわれわれの任務……今回の件は我々が不甲斐なかっただけ。それ以下でもそれ以上でもない」


「……強いですね」


「君ほどじゃないさ」


コリンズはゆっくりとアルフの前まで歩き、自身の膝を付いた。

アルフが困惑していると、コリンズは前にかがみながら頭を下げ再び顔を上げるとコリンズは真面目な顔で話始めた。


「君はどうしてフラッグに入ったんだ?」


「え……」


「任務上、それも別所属とはいえ君にこの命を3度も救われて……俺の中でいろいろな感情が沸いたよ。

なんでだろうな。君が年下だから?フラッグ隊だからか?……うまく言葉にできないけどさ。

なんか刺さったんだよ、君の戦いに……そして同じくらい危うさも感じた。ほんとに複雑な感情が混じったよ」


沈んでいく夕焼けの影でアルフ達の影がゆっくりと伸びていく中、コリンズはそのまま話を続けた。


「んでひとつだけ決めたんだ。サルゴン警備隊コリンズ=ペス。

もしこの先、君の身に何があっても、俺は君の味方でいるよ。

まぁ俺が出来る事なんて知れてるけどさ。その時の有事の備えて俺も必死になって力をつけてみるよ」


コリンズはニコっと笑い素直な視線をアルフを見ていた。

アルフは驚きの沈黙の後、自身も笑ったコリンズに答えた。


「ええ、僕も負けないように頑張ります」


「ミハエルさんも本当に助かったよ。そしてフラッグのみなさんも改めて感謝します」


コリンズはその場にいる人達に握手を求め、また求められた人はしっかりと握手をしていった。


「無事でなによりです。それじゃそろそろサルゴン街に帰りましょうか。日も沈みそうでしょうしね」


アキが場を締めくくり、一行はサルゴン街へと戻って行った。



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